余りにも内向きなエネ政策論議

余りにも内向きなエネ政策論議          

金子 熊夫

 民主党政権のエネルギー政策の迷走ぶりは目に余るものがある。政府のエネルギー・環境会議が9月14日にまとめた「革新的エネルギー・環境戦略」は、各方面の強い批判や抗議を受け、さすがの野田政権も怖気づいたか、僅か5日後大幅にトーンダウンされた。春以来「国民的論議」と称して派手に進めてきたパブコメ・意見聴取会騒ぎは何だったのか。まさに腰砕け、竜頭蛇尾の一幕、所詮は次期総選挙を意識した誤魔化し以外の何物でもなく、およそ「国家戦略」の名に値しない。

 しかし、菅前政権以来の脱原発の基調は残っており、「2030年代原発稼働ゼロ」を目指す、原発の新増設は認めない等は明記されており、その部分が独り歩きしていることが極めて問題である。
国内的には、さしづめ、現在大学で専門学科の選択に悩んでいる学生達が、将来性のない原子力を忌避しており、今後良質の原子力専門家は激減する。これでは、20、30年後も必要な最低限度の原子力技術を維持することも覚束ない。

 それ以上に心配なのは、この拙速な脱原発政策が日本の将来にもたらす決定的なマイナスである。そもそも日本が無資源国であり、エネルギー自給率は僅か4%という厳しい現実は昔も今も全く変わらない。1・3億人の人口と世界第3位の経済活動を支えるエネルギーをいかに確保していくかは、日本民族の永遠の宿命的な課題だ。電力の3割を担っていた原子力無しで果たして日本が生き延びていけるか、日本人以上に世界各国が興味津々凝視している。実は、今回の脱原発騒動で内心一番喜んでいるのは、中国や南北朝鮮だろう。米国が、同盟国日本の国力低下によりアジアの安全保障が不安定化するのを憂慮するのは当然で、「アーミテッジ=ナイ報告」でも明らか。原発ビジネス・インタレストだけではない。

 40年前の石油危機を肌で経験した世代はめっきり少なくなったが、あの危機を歯を食いしばって乗り越えて今日の日本の繁栄を築いた主役が原子力であったことを日本人は片時も忘れるべきではない。
その後も石油への依存度、中東への依存度は減っていない。とくに3.11以後、原発の穴埋めで火力発電が激増しているが、その中心である天然ガス(LNG)も決して盤石ではない。米国の次期政権いかんによっては、イスラエルのイラン攻撃をきっかけにホルムズ海峡封鎖、さらには中東全域を巻き込んだ戦争の危険性も排除されない。石油はともかく、天然ガスは備蓄が効かないので供給断絶で日本は忽ち酸欠になる。原子力カード抜きでは価格交渉でも不利は免れない。 

 中東以外でも、例えばインドネシアのように自国内の需要増でガスの輸出を制限するケースも出てくる。米国で現在ブームのシェールガスも日本にどれだけ入ってくるか未知数だ。まして北方領土問題を抱えたロシアからの輸入には大きな期待は持てない。現に東欧諸国は露産ガス依存から脱出するために原発建設を急いでいる。

 現在の民主党政権がこういった厳しい国際的状況を十分考慮した上で、なおかつ脱原発を基調とするエネルギー政策を策定しようとしているとは到底考えられない。確かに、未曾有の大震災と福島原発の過酷事故によって今もなお悲惨な生活を強いられている福島の方々を思うと、原発再稼働を唱えるのは心苦しい。しかし、当面の原発災害賠償問題と「国家の血液」ともいうべきエネルギー問題とははっきり分けて考えなければならない。

 戦後、日本人はかつての大日本帝国時代への反省から一転して国内志向を強め、身の回りのことにしか目が向かなくなっている。未熟な政治家のポピュリズムがそれに輪をかけている。再生可能エネルギーも大いに結構だが、所詮「マイホーム型のエネルギー」であって、経済大国の基盤を支えうるものではない。この自明の理を為政者は勇気を持って国民に訴えてほしい。