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「ゴルディオスの結び目」

  • 執筆:金子熊夫
  • 掲載日:2003年2月14日
  • 掲載紙: 電気新聞 時評「ウェーブ」

昔小アジアにあった古王国フリジアのゴルディオス王が二本のロープで極めて複雑で固い結び目を作った。これを解いた者は全アジアの王となるだろうという神託で、諸国の実力者や知恵者があらゆる手を使って必死に試みたが長い間どうしても解くことができなかった。今でも解決不能な超難問のことを「ゴルディオスの結び目」(Gordian knot)という。

日本の核燃料サイクル計画、とりわけプルトニウム問題を見ていると、まさにそんな感じがする。ウラン燃料を原子炉で燃やすと必ずプルトニウムが生まれる。それを米国のように使用済み核燃料のまま永久貯蔵する方法もあるが、日本はウラン資源の節約その他諸々の理由で再処理し、プルトニウムを取り出す政策を選択した。

ところが、そのプルトニウムの最大の用途である高速増殖炉計画が大幅に遅れ、もう一つのプルサーマル計画も、先刻周知の事情により中々実施できない。その結果、分離されたプルトニウムが現在、国内に約6トン、海外(英仏)に約32トン溜まっている。いずれ十年後には累積で70~80トンにも達する計算だ。

このような余剰(未利用)のプルトニウムの大量な蓄積は「日本はやはりいずれ核武装するのでは」という疑惑を国際的に招く。これらはすべて核兵器製造に不適な低品位プルトニウムだから心配無用といくら説明しても、疑惑は後を絶たない。プルトニウムが何トンあるから何発核爆弾ができるという単純な話に飛躍する。

現に、今回の北朝鮮核問題が表面化した昨年秋以来、日本はいよいよ対抗上自前の核武装に走るのではないか、いっそこの際日本に核武装させた方が戦略的にベターではないか(対中牽制にもなる)という議論がワシントンでも出てきている。唯一の被爆国として「非核」を国是とする日本人からすれば、甚だ迷惑な話だが、国際的にはそういう目で見られ易いということは一応知っておくべきだろう。

ならば、再処理をしなければいいのではないかという意見も当然出てくるが、そうなると大量の使用済み燃料を

どうするか。そのまま発電所内に長期保管するとなると、地元が約束違反だと言って騒ぐし、青森県六ヶ所村に持ち込むにしても、再処理が前提でないと地元が納得しない。とりあえず別の場所に30~50年くらい暫定(中間)貯蔵するという案もあるが、問題を先送りするだけだという批判もある。

 ところで、国内では忘れられているもう一つの厄介な問題は、既に英仏に持ち出して再処理してもらったプルトニウムをどうするかである。必ず日本に持って帰るという約束で二十数年前に再処理委託契約を結んだので(因みに筆者は本件の外務省の担当課長だった)、持って帰るのが筋だが、右のような国内事情に加えて、海上輸送に関わる諸問題(専用運搬船の航路周辺の国々の反対や核ジャック・テロ対策など)もあるので、そう簡単には行かない。だからといって、いつまでも日本に持って帰らないと、英仏でも地元に反対運動があって困るからと、催促してくる。

 というようなわけで―紙幅に余裕があれば、もっともっと問題点をリストアップできるが―現状はいわば八方塞りで、これを打開するのはまさに「ゴルディオスの結び目」を解くに等しい至難事である。

 ところで、「ゴルディオスの結び目」は、ある日アレキサンダー大王が剣を抜いて一刀両断の下に切断したため、瞬時に解決した。快刀乱麻を断つとはこのことだ。日本のプルトニウム問題という結び目を誰が何時どのように切断するか。

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