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ベトナムに原発、猫に小判?

  • 執筆:金子熊夫
  • 掲載日:2002年11月26日
  • 掲載紙: 電気新聞 時評「ウェーブ」

私は今、2ヵ月の予定でハノイに滞在している。なぜベトナムなのかは前回(10月23日)説明した通りで、最近20年間はほぼ毎年のように来ているが、そのたびにこの国の変貌振りには驚かされる。

市内で真っ先に目に付くのはモーターバイクの多さで、人口8,000万の国に現在約1.000万台が走り回っている。その喧騒と交通渋滞は凄まじいばかりだ。しかも60%は無免許運転で、バイク絡みの交通事故死は今年に入ってからすでに1万人近いとか。朝夕のラッシュ時に道路を横断するのは正に命がけだ。

 こんな国で果たして原発導入が可能だろうか、と疑問に思うのも当然だ。しかし、当国の電源開発計画では確かに、2017年に最初の原子力発電所が運転開始予定となっている。

日本に似てベトナムは、南北約1,600キロの細長い国(面積は九州を除いた日本と同じ)で、北と南では気候的、地理的に大きく異なり、エネルギー事情も異なる。ハノイを中心とする北部には、石炭が比較的豊富にあるほか、ベトナム戦争終結後旧ソ連の援助で出来た大型の水力発電所が稼動している。私は建設中と完成後に二度現場を見学したが、黒部ダムに似て岩盤を刳り抜いた豪快な発電所で、ここだけで全国の電力の3分の1を発電している。それでもハノイでは時々停電するのは送電面に問題があるからだ。

これに対し、ホーチミン市を中心とする南部は、工業活動が最も活発な地域であるのに、地形的に水力発電は不向きで、もっぱら火力発電に頼っている。将来メコン河開発計画が進展しラオス等から水力の電気を大量に輸入できるようになるか、あるいは南シナ海の南沙諸島周辺で大型油田が発見されればともかく、現状のままでは、今後急ピッチで工業化が進むにつれて、電力不足が一層深刻化する。

工業省による最新の電源開発計画によれば、2020年までに1,670~2010億kWh(現在の6.2~7.5倍)の電力が必要になる。このためには国内で新たな石炭、石油、天然ガスを開発せねばならないが、それだけでは不十分なので、海外から石油、ガス等を大量に輸入するほか、原子力にもある程度頼らざるをえない。 

同計画では、2020年までに標準ケースで120万kW、高成長ケースでは400万kW規模の原子力発電を想定しており、2017年の1号機の運転開始を目途に、目下予備的実現可能性調査(プレ・フィージビリティ・スタディ=FS)を行っている。この調査結果いかんにより、順調に行けば、2004年中にも国会の決定を経て次の本格的なFSに進む段取りになっている。

こうした状況の中で現在、フランス、ロシア、カナダ、中国、韓国、日本等が対越原発商戦で凌ぎを削っている。 日本以外は、大統領や首相が自ら陣頭に立って自国製品の売込みを図っているが、日本勢は民間企業が中心で、見劣りがするのは否めない。日本製の炉の性能のよさは衆目の認めるところだが、いかんせん価格が高すぎる。核燃料をセットで供給できないという不利もある。

しかし、それ以上に問題なのは、政府が必ずしも原発輸出に前向きでないため、所要の日越原子力協力協定がいまだに締結されていないことである。政府部内には「ベトナムに原発輸出? 猫に小判みたいなもので、将来火遊び(核兵器開発)に使われかねない」と警戒する者もいる。いつか上坂冬子氏も本欄で慨嘆していたが、この政府の姿勢が間違っていることは、私が以前から繰り返し指摘しているとおりである(拙著「日本の核・アジアの核」=朝日新聞社=の第五、六章参照)。

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