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日本は核武装するか?

  • 執筆:金子熊夫
  • 掲載日:2002年6月21日
  • 掲載紙: 電気新聞・時評「ウェーブ」

前回(5月21日)予告したように、日本のプルトニウム政策について書くつもりでいたところへ、六月初め、「非核三原則」見直しに関する福田康夫官房長官発言が飛び出て、大騒ぎになった。

この問題を巡りその後国会では、与野党間でお定まりの論争があったが、小泉首相が「発言は全く問題ない」の一点張りで逃げ切った感じで、国内的には一段落した格好になっている。しかし、海外では福田発言の余震はまだ続いており、毎度のことながら、「日本核武装論」に対する海外の過敏さには驚かされる。

実は、日本では殆んど注目されなかったが、今回の発言の僅か一カ月前に、小沢一郎自由党党首の同種発言(中国が核軍拡を続ければ、日本人もいずれ核武装を言い出すぞという対中牽制的発言)があり、これが伏線となって、今回の福田発言が大反響を呼んだ訳だ。そのことに気づかなかった日本の政治家の鈍感さこそ問題だが、それは今は問わない。

 私が問題にしたいのは、小沢、福田両氏に限らず日本の政治家には、原子力や核問題に関する基礎知識があまりにも欠けていることだ。例えば小沢氏は、前記の発言の中で、「日本には数トンのプルトニウムが現にあるので、その気になれば、直ぐにでも3千から4千発の核爆弾を作ることが出来る」と述べたそうだ。

彼の念頭にあったのは当然、原子力発電所から出た使用済み核燃料を東海村や英仏で再処理して出来たプルトニウムのことで、専門家の間では「原子炉級プルトニウム」と呼ばれものである。これは、核兵器に実際に使われる軍事用プルトニウム(「兵器級プルトニウム」と呼ばれる)に較べ、核分裂性のPu239の比率が格段に低く、そのままでは実戦で使えるような核兵器は到底出来ないとされている。

私自身は科学者ではないので、あまり細かな説明は出来ないが、色々な専門家の話を総合すると、原子炉級プルトニウムで核爆弾を作るには非常な困難が伴うし、仮に作れたとしても、サイズや重量が大きくなり過ぎてとても運搬できないらしい。そんなことをするのは恰も鋼鉄か鉛で飛行機を作るようなものだと言う人もいる。

従って、いわゆる「ならず者国家」やテロ組織が、もし本当に核兵器を作ろうとするなら、わざわざ原発用のプルトニウムを使わずに、最初から兵器用プル専用の炉を使ってやるはずである。しかし、それだってもそんなに簡単にできるものではない。アル・カーイダも、オーム真理教の連中もいろいろ試みたらしいが、結局うまく行かなかったようだ。

ただ、誤解のないように言っておくが、私は、だから原子炉級プルトニウムでは核爆弾は作れないから心配無用と主張しているわけではない。原子炉級プルでも、ちゃんと爆発はしないが、プルトニウムをばら撒く程度の粗製爆弾は比較的容易に出来るらしい。いかに粗製でも殺傷能力はあり、危険であることは間違いない。だからこそ、原発用のプルトニウムはもちろん、ウラン燃料や使用済み燃料などは常に厳重に管理し、絶対にテロリストの手に渡らぬようにすることが必要で、いわゆる保障措置(査察)や物的防護(PP)はそのための制度である。

ちなみに、最近米国で、アル・カーイダの一味と思しきイスラム系米国人がFBIに逮捕されて急に話題になった「汚い爆弾」(dirty bombs)も、それ自体は核爆発とは無関係だが、通常火薬で爆発すればかなり広範囲を汚染する惧れはあり、しかも、原料となる放射性物質は病院や化学工場などから窃取可能だから、一層要注意だろう。

要するに、ここで私が言いたいのは、日本が現在何トンの民生用プルトニウム(実際には約5トン。将来は数十トンに増える)を持っているから何発の核爆弾を作れるというような簡単な話ではないということで、この程度の知識を日本の政治家は持っているべきだということである。不勉強な政治家の不用意な発言ほど有害なものは無い。もっとも、原子力の専門家の側にも、「臭い物には蓋」で、日頃から素人にも分かりやすい説明をして来なかったという責任はある。

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