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日本は「油断」してはいないか?――もう一つの原子力必要論――

  • 執筆:金子熊夫
  • 掲載日:2002年4月 9日
  • 掲載紙: 電気新聞・時評「ウェーブ」

地球温暖化防止策としても益々重視されるべき原子力発電が、国内では相変わらず厳しい逆風に晒されている。最大の原因が安全性問題にあることは、言うまでもない。

その他にも、「プルサーマル」計画、MOX(混合酸化物)燃料工場建設、使用済み核燃料の中間貯蔵など、一連の核燃料サイクル関連の技術的な難問が山積している。さらに最近は、電力市場自由化の流れの中で、原子力がどこまで競争力を持ち得るかとか、「環境税」や「炭素税」をどうするかという経済的、財政的な問題も盛んに論議されている。 

 確かにこれらはいずれも重要な問題点だが、そうした国内レベルの視点だけの議論で十分だろうか。一般に石油、天然ガスをはじめエネルギー問題は、本質的に高度の国際政治性を持つが、とりわけ原子力問題については、国際政治的、外交的な側面を疎かにすることはできない。そのような視点でとくに留意すべき問題点をいくつか指摘しておきたい。 

第一に、昨年九月十一日のテロ事件直後時懸念されたエネルギー危機は、幸い未然に終わったものの、現在、日本の輸入石油の対中東依存度は、第一次石油危機前の水準を超え、約九〇%に達しており、とても「油断」できる状態ではない。しかも、危機の火種は、ペルシャ湾岸に止まらず、印パ対立が続くインド洋、海賊が横行するマラッカ海峡、領土紛争がくすぶる南シナ海等々、日本向けタンカー経路の至る所に潜在している。こうした海洋交通上の脆弱性に対し日本人はあまりにも無警戒だが、原子力はそのような緊急事態に対する「保険」としても欠かせないのではないか。

 第二に、中長期的にみたアジアのエネルギー安全保障への不安が高まっている。巨大な人口を擁し、驚異的なスピードで工業化する中国、さらに長年産油国であったインドネシアまでが原油輸入国化しつつあり、今後各国の中東石油や南シナ海の海底石油・ガスを巡るエネルギー争奪戦の激化は避けられない。こうした状況を少しでも緩和するため、アジア各国は、石油代替エネルギー(太陽光、風力などの自然エネルギーを含む)の開発を急いでいるが、それだけでは所詮不十分で、やはり原子力発電で相当カバーしなければならない。原子力先進国である日韓等にはそうした責任もあることを忘れるべきではない。

 第三に、石油、天然ガスの国際市場において資源小国日本が、産油国機構やメジャー(国際石油資本)との価格交渉で不利を蒙らないためには、原子力はほとんど唯一と言ってもいい程の有力な武器である。こういった点にも日本人はもっと目を向けるべきだろう。

 第四に、原発大国のフランスを除き、軒並み脱原発一色と報道されがちな欧州諸国でも、実際には原子力の重要性は決して無視されておらず、必要な研究活動は着実に続けられている。しかも、米、英、仏、露等の核保有国は、仮に商業用の原発を全く止めても、再処理、プルトニウム等の研究開発は軍事部門で継続できるが、日本はそういうわけに行かない。将来高速増殖炉が実用化される時期が来たときに立ち遅れないためにも、日本は、核燃料サイクル計画を含め原子力活動を一定規模で維持、継続する必要がある。(ところが、日本では近年、全国の大学から「原子力工学科」が消え、研究者の質量的な低下が囁かれているが、このことを知っている政治家や国民は極めて少ない。)

 第五に、現在内外で研究開発が進められている小型安全炉は、国内の立地問題解決のためだけでなく、これから原発導入を計画している開発途上国(例えばベトナム、タイ、インドネシアなど)のニーズに応えるためにも、できるだけ早期に開発、完成させるべきだ。原子力の分野においても、もはや今までのような「一国安全主義」は許されず、私達は、アジアの長期的なエネルギー安全保障を視野に入れて行動すべき段階に来ていると思う。

要するに、日本におけるエネルギー・原子力政策を論ずる際に、私達は、国内レベルの安全性、経済性、環境性(グリーン性)等の視点だけでなく、日本の置かれている地政学的な位置や国際政治状況、とりわけアジア地域の現状をもっと冷静かつ客観的に分析し、その上で総合的な判断を下す習慣を身に付ける必要がある。民族生存のために不可欠であるエネルギーが実は、日本の最大の「アキレス腱」であるという厳しい現実は、昔も今も基本的に変わっていないからだ。



<金子熊夫> 東海大学教授。元外交官、外務省初代原子力課長。現在は(財)日本国際フォーラム   理事、(財)地球環境センター理事等。著書に「日本の核・アジアの核」等。愛知県出身、65歳。

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